• 基金設定者について
  • 当基金の概要
  • 助成事業一覧
  • これまでの助成実績
  • 受益団体からの声
  • 公益信託制度とは
  • 応募するには
  • お問い合わせ
  • サイトポリシー

・コンポンルアン水上村における、水の浄化と衛生啓発活動による保健衛生の向上(2007年度)
(対象地域:カンボジア、コンポンルアン村)

日本カトリック信徒宣教者会 
漆原比呂志さん(事務局長)
  • - 活動のきっかけを教えてください。

 日本カトリック信徒宣教者会(以下、JLMM)は元々、現地のカトリック教会とともに、カンボジアの首都プノンペン周辺のゴミ集積所周辺などで支援活動を行ってきました。私自身も1992年から3年間、現地で活動していました。カンボジアの真ん中に東南アジア最大の湖と言われるトンレサップ湖があり、その湖には主にベトナム人が住んでいるのですが、彼らの生活は困窮しており、またベトナム人集落ということでカンボジア政府の優先対象から外れており、NGOの支援の手が届いていないことを知り、2001年から支援活動を開始することを決めました。


  • - 湖の上に住んでいるとのことですが、事業地について教えてください。

 写真を見ていただくと分かりやすいですが、トンレサップ湖には、湖の上で生活している人々がいます。家屋、学校、病院、ガソリンスタンドなど、様々なものが「水上」にあり、人々は水上で生活し、陸地にあがらないという、非常に特殊な環境にあると言えます。JLMMは、日本から高橋真也を派遣し、トンレサップ湖上の全200ある水上村の中で最大規模の「コンポンルアン水上村」というところで、水上教会を中心に識字教育、水浴びプログラム、家庭訪問、衛生改善プログラム、奨学金、船上にある公立小学校の支援などを行ってきました。JLMMは、キリスト教の理念に基づいて、派遣国で愛の実践を行って現地の人々と苦楽をともにし、平和な世界を実現していくことを目指しています。


1日1ドル以下で生活する湖上のベトナム人集落

 コンポルンアン水上村は、首都プノンペンから車と船で約4時間かかります。この村の人口は約1,600世帯(約6,000人)いると言われており、その70%がベトナム人で、残りの30%はクメールかチャム民族です。
 住民の多くが、カンボジアのID(身分証明書)を持っておらず、陸地で仕事を得ることは困難で、主に湖で漁業を生業としています。しかし、雨期は稚魚を育てる期間で、国から禁漁期として定められているので、住民に収入があるのは半年間だけです。ですから乾季に稼がなければならないのですが、年間を通じて十分な収入を得ることは困難です。自分の家(船)の下にイケスのようなものを作り、魚を育てて販売している人もいますが、エサ代がかかり、結局、1日1ドル程度で生活しています。


水質の悪化により命を落とす子どもも

 ここでの深刻な問題は水質の悪さです。人々は、炊事洗濯など生活用水を湖から得ていますが、生活排水や家畜の糞などもそのまま湖に流れており、湖水は緑色や茶色です。このため、皮膚疾患、肺炎や腸炎など、水が原因の病気が多く見られ、栄養失調気味の子どもは下痢をして命を落とすこともあります。市場ではきれいな水が販売されていますが、お金がない人々は手に入れることができません。
 そこで、水の問題を扱うことが必要であると私たちは感じ、現地の人々と何ができるかを一緒に相談しました。そうしたところ、他の村で水をきれいにするという活動を行っていることを知ったので、この村にも浄水施設を作ることを決め、今井基金に助成申請させていただきました。


  • - 水をきれいにする活動とのことですが、活動の内容について教えてください。

住民組織が浄水装置を運営・管理

 まず、船を教会から譲り受け、浄水装置を設置する木の枠組みを作りました。同時に、水上村に住む約50世帯を訪問し、きれいな水に対する知識をどれくらいもっているのかなど、調査を行った結果、住民は、きれいな水の必要性は十分認識しているが、入手できないということが分かりました。
 その後、浄水装置の運営と管理を行う住民グループを形成しました。1グループ10人位で形成され、関心のある人が参加しています。また、販売価格の設定はどうするか、フィルターを交換するときはどうするかなど、浄化水の活用方法についても話し合い、重要な役割を果たしています。2010年4月からは、販売業務を含む運営全般を住民グループに任せています。


1日500リットルを浄水、市価の8分の1で提供

 浄水装置の仕組みとしては、湖からポンプで水を汲み上げ、2,000リットル入る大きなタンクに入れて、1日から2日置き、ミョウバンを利用してかくはんします。その上澄み液をフィルターや石などで浄化し、最後にセラミックの棒で構成された部分を通過させ、細菌や臭いのないきれいな水にします。水は1日500リットル位出来ます。
 当初、登録した人しか浄化した水を利用できないことになっていましたが、その後、ニーズ調査やグループ会合を行った結果、すべての住民に使ってもらおうということになり、一般向けにも販売を開始しました。
 通常、この地域の家庭の多くは20リットル規模の貯水タンクを持っており、そこに水をためて、飲み水などに使っています。市場では、20リットルで約1ドル(約4,000リエル=約100円)しますが、本事業では当初、同じ量の浄化した水を500リエル(約12〜13円)で販売しました。これは市価の4分の1程度であり、随分と安い価格で提供しています。
 水の販売だけでなく、JLMMでは、このきれいな水を使って手洗い指導などの衛生教育も実施しました。


きれいな水で手洗い、病気予防

  • - 水が原因の病気が多く見られたとのことですが、浄水装置を設置して、住民に変化は見られましたか。

 JLMMでは識字教育も行っているので、子どもたちが沢山、集まってきます。それまでにも「水浴び教育」を行ってきましたが、水の質が悪く、良い水とはいえませんでした。この浄水プロジェクトできれいな水を使って水浴びを行うことができるようになり、シラミの発生や病気をかなり予防できるようになりました
 今では、きれいな水を使って手洗いすることが、かなり徹底されてきており、水によって病気を予防できると住民は感じています。結果として、住民の衛生環境が大幅に改善されて、健康状態が向上しました。
 この浄水プロジェクトでは、「水は本当に大事だよ」という意識を皆で共有することを大切にした結果、徐々に意識が高まり、病気を未然に防ぐとか、「水」そのものが命にとって大切なのだという意識を持ってもらうことができました。また、この事業を通して自分たちの命や将来に関わる大切なものとしてこの事業を受け止め、住民が真剣に議論しており、住民の中に協力の輪が生まれました。
 この浄水プロジェクトが良い刺激となり、2010年に別の村に、コミューン(郡)単位の地方行政が管理する浄水装置が新たに作られました。2011年内に装置を稼働させる計画のようです。


  • - 水の販売額は20リットルあたり500リエル(約12〜13円)とのことですが、利益はあげられているのでしょうか。

 2007年に販売を開始した時には、月の平均販売ボトル(20リットルが入るボトル)数は128本/月でしたが、2009年には289本/月に、さらに2010年3月はひと月で577本と販売量は増えており、利益により維持管理ができるようになっています。当初は、管理費なども今井基金からの助成金でカバーしていましたが、今井基金からのご支援が終了してからは利益から人件費を含めた管理費も出せるようになりました。
 2010年4月からは販売額を1,000リエル(約25円)に値上げしましたが、それでも、市場価格の4分の1の価格です。


  • - 今後の課題について、そしてJLMMとして達成したい夢を教えてください。

 乾季は水が少なく、水質は悪くなります。浄水装置の真下から水を取ることが難しくなるので、200リットルのタンクを船に乗せて沖まで出ていき、ポンプでくみ上げ、それを持ち帰って浄水装置できれいにするという作業が発生します。これは大変な仕事で、船が転覆したこともあるため、乾季の水の集め方が課題です。
 JLMMとしては、今後、衛生教育などの「予防」を徹底させ、水上クリニックの整備をしていきたいと考えています。最終的な達成目標は、経済的に貧しくとも、すべての住民が健康に暮らすことができることです。


  • - どうもありがとうございました。